VUCAの時代
VUCAとは
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧さ)
の頭文字を取った言葉で、不確実性や複雑性が高く、変化が激しいビジネス環境を表す言葉です。主に経営管理や戦略立案の分野で使われ、従来のビジネス環境とは異なる特徴を持つ現代の環境を表現します。
VUCAのビジネス
VUCAの時代のビジネスには、市場の変動、技術の進化、競争の激化、政治的・経済的な不安定さなどが常に存在しています。企業や組織はこれらの予測の難しい状況に瞬時に対応しなければならず、また、このような環境下で、企業や組織は常に変化を追い求め、創造的なアプローチや新しいビジネスモデルを探求しなければ、競争優位を維持できません。
そのためVUCAの時代においては、従来の経営手法やビジネスモデルでは対応できない課題に向き合うことを強いられるケースが増加します。そこでVUCAに立ち向かう際に有効とされる組織行動論理がエフェクチュエーションです。
エフェクチュエーションとコーゼーション
エフェクチュエーションを説明するにあたり、対概念であるコーゼーションについて理解することは重要です。
コーゼーション(causation)
コーゼーションは、組織行動論理に関する概念で、計画的で予測可能な未来を前提として、目標を設定し、目的を達成するために必要な手段を論理的に考えるアプローチです。大きくは以下のような流れを踏むことでビジネス発展を目指します。
- 将来を予測する
- 将来予測から目標を設定する
- 目標達成に必要な戦略を立案する
- 目標達成戦略に基づいて手段・リソースを事前に確保する
- 目標達成に活動を開始する
VUCAにおけるコーゼーションの問題点
VUCAの時代では、以下の3つの点でコーゼーションの考え方は不利だと考えられます。
- 未来予測が困難
コーゼーションは「計画的で予測可能な未来」を前提としています。変化が激しいVUCAの環境ではフローの最初にある「将来を予測する」というプロセスを精度良く実施することが困難です。 - 手段・リソースを“確保してしまう”点
確保してしまった手段やリソースは簡単に手放したり別のものに切り替えることができません。例えば、目標達成に必要な設備とその設備に詳しい人をコストを払って確保したとします。目標設定時と状況が変わってしまい、その設備が不要になってしまったとしても、そのために費やしたコストも時間も戻りはしません。 - 1サイクルが長大
「活動開始する」までに時間がかかるのがコーゼーションです。もちろんそのサイクルをスピーディに進める努力は可能かもしれませんが、予測に基づき周到に準備をすることで、失敗なくゴールが達成できるというのがコーゼーションの考え方の基本にあります。
エフェクチュエーション(effectuation)
一方、エフェクチュエーションは、組織行動論理に関する別の概念で、未来の不確実性を前提に採用するアプローチです。エフェクチュエーションでは、利用可能なリソース・スキル・関係性を活用して現在の状況から始めることを前提としており、未来を予測することよりも、走りながら将来の可能性を発見していくことを重視します。大きくは以下のような流れでビジネスの成功を目指します。
- 自分が持っているリソース、スキル、人脈を明らかにする
リソースはモノ・金、スキルは特技や好きなこと、人脈は仲が良くて声を掛けたら協力してくれそうな知人や家族です。この時、ビジネスを前提とせず、素直にありのままの情報を整理します。 - 自分の中からビジネス課題を見つける
「やりたいこと」や「こうだったらいいのに」と思うこと、逆に「これはやりたくない(だから他の人もやりたくないはず、誰かに代わりにやってほしいと思っているはず)」という自分なりの考えからビジネスに結びつきそうなな課題を明らかにします。 - 仮説を立てて検証する
2で明確化したビジネス課題に対して、1で整理した手持ちのリソース・スキル・人脈の活用の組み合わせを考えて仮説検証を行います。特定のビジネス課題に対して、有効そうなスキルやリソースを当てはめたり、この人と協力したらうまくいくかも、といった人脈との協力関係を検討します。この時、壮大なビジネスを立案するよりも、むしろ小規模で自分がコントロールできる範囲のビジネスを策定した方が良いとされています。 - リスクを低減する
エフェクチュエーションでは最初から大きな利益を目指さずに、むしろリスクが最小化するようにして進めていく必要があります。例えば、1で整理したリソースを1回のビジネスに全てつぎ込むのではなく、失敗してもある程度手元に残るような状態で前に進む必要があります。これは次のステップ“失敗を糧にする”に繋げるためでもあります。 - 失敗を糧にする
ビジネスに失敗はつきものです。しかし1度の失敗で人は多くのことを学ぶことができます。また失敗しても、その結果がビジネス成功の鍵になることもあります。失敗や逆境を工夫やアイデアで価値につなげることもエフェクチュエーションで重要とされている考え方になります。
このようにエフェクチュエーションでは、ビジネスオーナー自身の能力やリソースを最大限に活用し、不確実性を創造的に解決することで、ビジネスの成功を目指します。
VUCAのビジネス発展に有効な考え方は?
VUCAの時代には、市場や顧客動向が急速に変化するため、企業や組織は迅速かつ柔軟に対応する必要があります。このような状況下では、コーゼーションのような長期的なビジネス計画や戦略だけではなく、エフェクチュエーションのような迅速な意思決定や行動が必要になることがあります。
事例:ChatGPT
例えば、最近もChatGPTのような新しいテクノロジーが市場に現れたことで、AI活用を前提としたビジネスが急速に発展しています。このように新たなテクノロジーによって今まで存在しなかったビジネスモデルが短期間で登場し、市場を急速に変革することがあります。あるいは、競合他社や新興企業が急速に台頭することもあるでしょう。このような変化に対応するためには、エフェクチュエーションのような迅速な意思決定や実行力、スピード感や創造的なアプローチは非常に有効でしょう。
以上のようにVUCAの劇的な変化に迅速に対応するには、エフェクチュエーションの方が有効と考えられます。しかしながら、これは現時点の対応を例にした場合のアプローチのため、これから先もエフェクチュエーションがコーゼーションよりも優れた結果を出すとは限らないことを頭に止めておかなければなりません。最も重要なことは、エフェクチュエーション/コーゼーションの両方の論理を本質的に理解し、状況に応じて適切なアプローチを選択できるようにすることと言えるでしょう。
ビジネス創造が苦手な日本企業
昨今のビジネス界隈を見るに、日本はハード・ソフトともに開発力は世界でも戦えるだけのポテンシャルを持ち合わせながらも新ビジネスを創造する力が一歩及ばない、そんな印象があります。
一般的に日本の大企業はコーゼーションに基づくビジネスが多いと言われており、これは日本のビジネス文化が、長期的なビジネス関係や計画的な事業戦略を重視する傾向があるためです。しかし、それだけでは新たなビジネスの創出が難しく、最近ではエフェクチュエーションに基づくビジネスアプローチを採用する企業も増えてきています。これは、グローバルな競争や急速なテクノロジーの進歩など、ビジネス環境の変化に対応するためです。
また、スタートアップ企業やベンチャー企業など小規模で柔軟性の高い企業が、エフェクチュエーションを採用することで、市場に新しいビジネスモデルやイノベーションをもたらすことが期待されます。
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